どれだけ時が流れても
その報せを受け取ったのは、2年前の6月のある日のこと。
暑い日だったのか、梅雨に入っていたのか、半袖を着ていたのか、もう思い出せなくなってしまった。
ただ覚えているのは、絵の具を水で薄めたような空を見て
「こんなぼんやりした空じゃあ、向こうからこっちは見えないよなぁ」
と思ったこと。
そう思った瞬間、立っていられないような哀しみに襲われて、でもわたしが泣くのはなんだか違う気がして、普通に仕事をして、家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、とっちらかった頭の中が少しだけ落ち着いた時に、「今日は疲れたなぁ」と思ったこと。その後に波のような感情が押し寄せてきて、声を殺して泣いたこと。
当時はとても落ち込んでいて、いろんな人に励ましてもらったような気がします。
「わたしも同じような経験をしました。時間が解決してくれますよ」
そんな言葉をくれた人もいました。
2年経った今、その言葉がようやく、わたしの中に染み込んできました。
その言葉の意味を頭では分かっていたけれど、心が追いつけなくて、その人の優しさがありがたいのと同時に、言いようのない痛みを感じていました。
時間を積み上げていくことでしか解決できない哀しさがあって、地層のように降り積もった時の流れによって、癒される傷もあるのだと初めて知りました。
それと同時にどれだけの時間を使っても、消えない淋しさがあるのだということも。
一緒に過ごした時間はとっても短くて、それでもかけがえのない大切な時間だった。その大切な時間よりも「いなくなってしまった時間」の方が長くなっていく。
2人で時たまおしゃべりしたその子の家はきっともう違う人が住んでいる。確かめるのが怖いのに、手元に残ったお招きの翼は捨てられないまま。
ドラクエ10のサービスが終了したらツールは開けなくなるのに、一緒に撮った写真は鍵をかけたまま。画像データとして保存することができずにいる。
もう二度と、フレンドリストのアイコンが光ることはないのに、どうしたって切ることができない。
思い出にしてしまったら、「なかったこと」になってしまいそうで、まだ割り切れていないし、向き合うことができずにいる。
「冥福をお祈りします」という言葉があるけれど、とってもそんな風に言える気分じゃなかった。今も少し抵抗がある。
「冥福」なんていう目に見えないものを届ける力が祈りにあるならば、そんな力があるなら、今ここで話がしたい。話がしたかった。どんなことだっていい、くだらないことだって。いつもみたいに笑って話がしたかった。
なんでもっとたくさんのことを話しておかなかったんだろう。わたしに話したいこと、聞いて欲しかったこと、あったかもしれない。
わたしにしかできないこと、あったんじゃないか。
なんでもっと、もっとーーー。
居なくなってしまった事で、その子との時間を美化しているだけなのかもしれない。
哀しみに酔ってるだけなのかもしれない。
ゲームの中で知り合った人にそれだけの感情を傾けるなんて、傾けてしまうなんて、わたしが弱いだけなのかもしれない。
それでも最近は
「わたしが楽しいって思えたように、あの子にとっても2人で過ごした時間は、そういう時間だったのかもしれない。
そんな時間を1秒でも増やせたなら、出会えて良かったのかなぁ」
と思えるようになりました。
わたしは過去に、その子のことをブログに書きました。それを読んでくれていたそうです。とても嬉しそうに笑っていたと、ご家族の方が知らせてくれました。
拙い文章だけれども、わたしが書いたものを読んで、嬉しそうに笑ってくれたなら。そんな時間を作れたなら、良かったのかもしれない。
1番に読ませたかった人はもういないけれど、無意味じゃなかったんだ。
そう思えるようになるまで、これだけの時間が必要でした。これだけの時間が経ったのに、まだ淋しいよ。
きっと他の人はそういう痛みや淋しさをきちんと整理して胸にしまって歩いていくのだろう。
ゲームの中で出会った人は違うからと区切りをつけて忘れていくのが普通なのかもしれないな。
わたしは弱くて、幼稚で、なんだかそういうことがちゃんとできない。いつもそう。
感傷に浸ってばかりいて、現実をちゃんと見ることができないんだ。
そういう自分のことを情けなくも思うよ。
情けなさすぎて、みっともなくて、笑われちゃうかもしれない。「も〜、そんなに淋しがらないでよ!」と言われちゃうかもしれない。叱られちゃうかもしれないなぁ。
淋しがったりしてごめんね。
もっと一緒に遊びたかった。
いろんな話、したかったよ。
2人でしか話せないこと、あったと思うから。
今になって聞いて欲しいこと、たくさんあるんだ。
居なくなってしまった人たちとの時間は、永遠に止まったままで、動かすことのできないものだと思っていた。
でも、現在を生きるわたしは、その時間に色をつけることはできるのかもしれない。とびきり優しくて綺麗な色をつけようと思うよ。
きっといつか、2人で過ごした時間を輝きに満ちたものにしようと思う。
それまで、胸にうまくしまうことのできない淋しさを、抱えて歩いて行こうと思うよ。