青春ロックが刺さらない
わたしが今よりもまだまだ未熟だった頃。
今よりもずっと物を知らなくて、とんでもなく愚かで、弱くて、自意識ばかりが強く、さもない出来事に勝手に傷ついて、それでいて自分はなんだか特別な存在であるような万能感を持っていたあの頃。
簡単に言えばほんとうにただの子供だったあの当時、まるで宗教か何かのように聴きまくっていたバンドがいた。
THE BLUE HEARTSーーー。
移動の時もずっとブルーハーツ。
掃除の時はほうき片手にブルーハーツ。
部活の時はラケット片手にブルーハーツ。
大好きだったなぁ。
あの時は甲本ヒロトが、とんでもないヒーローに思えた。マイクロフォンの中からわたしだけに「頑張れ」って言ってくれているような気がしていた。
わたしが聴き出した頃にはとっくにブルーハーツは解散していて、ハイロウズだかクロマニヨンズだかになっていた。
それでも、あの頃の全てーーーとは言えないけれど、確かに一部で、日常のそこかしこにいたわけです、彼らは。
最近になって、ソフトバンクのCMかなぁ〜?TVから「青春」が流れて
「うわぁぁぁぁ!!!!懐かしいーーーーー」
って思いました。
まぁ、そんなことはどうでも良くて久しぶりに
ブルーハーツを聴いてみました。
いやぁ・・・
あまりにも刺さらなかった。
刺さらなすぎてびっくりしたもの。
なんで当時、あんなにも一生懸命聴いていたのか、全くわからない。
懐かしさは確かにある。
つい口ずさんでみたり、フンフン歌ってみたり、車の中で熱唱してみたり、やっぱり掃除の時に大声で歌ってみたり、はする。
でもなぁ。
あの頃の甲本ヒロトだけが自分を救ってくれるような、この音楽を聴いていれば無敵になれるような、なんかそういう「唯一無二」な感じが全く無くなってしまったんです。
そこで思ったのが
あーーーー・・・、わたし大人になっちゃったんだわ、コレ。
ということでした。
(大人になったんじゃなくて「老いたんだろ」って思った奴全員ザラキーマ)
イヤ、結構前から大人にはなっていたけれどね。
たぶん、ブルーハーツが刺さるのって、それこそ宗教かなにかのように崇拝していられるのって、限られた一瞬でしかないんだろうな。
その時はもうそれだけが全てで、でも数年もすれば忘れちゃうような。
忘れちゃうようなほんの少しの時間なのに、人生のどのステージにも当て嵌まらないきらめきみたいなものがあって、だからこそブルーハーツが刺さるんだろう。
あの頃のわたしは、確かに今よりもずっと物を知らなくて、とんでもなく愚かで、弱くて、自意識ばかりが強く、さもない出来事に勝手に傷ついて、それでいて自分はなんだか特別な存在であるようなカンチガイしちゃう痛々しい奴だったけれど。(今も痛々しさは変わらないんだけどさ)
目に写る全てのものが新しく、毎日が生まれたての朝だった。そのまんまの形で胸に入っていったんだろう。良いことにも悪いことにもフィルターなんて一切かかっていなかった。
今のわたしは、ほんの少しだけ物を分かったような顔をして、ちょっとだけ狡賢くなって、純粋であることが全てではないと、哀しみがどういうことなのかを知ってしまった。
でも不思議と、それが虚しいとか悲しいとか辛いだとか思わないんです。
懐かしい気持ちはある。ほんのちょっとだけ淋しいような、愛おしいような。
永遠に同じものだなんて何一つなくて、全てがうつろい変わってゆく。
ブルーハーツが大好きだったあの頃は、それがイヤだった。純粋であることが全てで、変わってしまうことが悪だった。
今は、うつろい変わってゆくさまもいいかもしれないと思う。変わってゆくわたしがどうなるのか見てみたいし、変わらず残ってゆくものがなんなのか知りたい。それを抱きしめていきたいとも。
ブルーハーツを大好きだったわたしはもういないけれど、たぶんそれでもかけがえのない毎日を生きている。